妊娠中は、内分泌環境の変化、唾液の分泌低下、悪阻による歯磨きの行いにくさのため、歯周病が増悪します。
また、それらにより口腔内のpHが低下するため、虫歯が進行しやすくなります。
妊娠自体は、歯科治療に対して特に制約はありませんが、胎児への影響が懸念される妊娠初期は救急性の高い歯科疾患に治療を限定することがすすめられています。
にもかかわらず、救急性の高い状況下では観血的な処置や薬剤投与、X線撮影が必要となるケースが多く、胎児期系のリスクとの関連で悩む場合が少なくないのが、今の歯科治療の現状です。
先天異常の頻度は、全分娩の2~4%とされ、そのうち65~70%が原因不明、25%が遺伝的な要因によるもの、3%が母体の環境的な要因(薬剤、放射線、感染)であるため、全体に占める環境要因は約0.1%に過ぎません。
しかし、実際に先天異常児が生まれた場合、処置や薬剤の影響を否定することは不可能であり、私自身歯科医師としては産科医の立場と同様にできるだけ、投薬の処置は控えるように心掛けています。
胎児の先天異常奇形のリスクは、妊娠週数によって異なります。
リスクが高いと考えられているのは、妊娠4週から15週末、特に妊娠4週から7週末です。
実際の歯科治療に際して、妊娠週数の確認が必要です。
胎児心拍が確認されれば母子手帳を交付されるため、これにより週数の確認ができます。
それでは、実際の歯科治療における注意事項を見ていきましょう。
胎児に対する放射線の影響は、被爆時期と被爆線量に依存します。
産科ガイドラインでは、「受精後11日から妊娠10週での胎児被爆は奇形を発生する可能性があるが50mGy未満では奇形発生率を増加させない」とされています。
頭部の単純撮影による胎児被爆量は最大でも0.01mGy以下とされていますので、腹部遮蔽の防護エプロンを着用すれば歯科用X線撮影はほぼ問題となることはありません。
妊娠中に投与された薬物の胎児への影響は服用時期によって異なりますが、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与される」という有益性投与が原則となります。
産科ガイドラインでは「アミノグリコシド系、テトラサイクソン系の使用は避ける。ペニシリン系やセファロスポリン系抗菌薬は安全に使用できる」とされています。
実際の歯科治療では、セフリン、フロモックス、メイアクト等が使用されるケースが多いです。
非ステロイド性消炎鎮痛薬は、胎児動脈管収縮などを発症する可能歯があり、基本的には禁忌とされています。
しかし、アセトアミノフェン(カロナール)は、産科ガイドラインでは、比較的安全に使用できるとされています。
海外の報告では「アセトアミノフェンは妊娠のすべてのステージにおいて一般的に使われる。母体に対する治療域のの投与は胎芽や胎児にリスクがあるとは思われない」とされています。
消毒薬は経皮投与でも理論上には胎児に影響を与える可能性が指摘されています。
ポピドンヨード(イソジン液)は、胎児の甲状腺機能異常や甲状腺腫の原因となることが指摘されているため、長期にわたる広範囲の使用を避けることが望ましいでしょう。
もちろん数回の使用では問題ありません。
リドカイン(キシロカイン)は、動物生殖試験において胎仔への危険性は否定されているため、通常量(カードリッジ2~3本)であれば、まず問題なることはありません。
しかし大量投与では、子宮血流の減少による胎児死亡が起きる可能性が指摘されています。
プロピトカイン(シタネスト)は、大量投与によりメトヘモグロビン血症を発環し、胎児における酸素供給が減少することや、母体より胎児における濃度が高くなることから使用は避けた方が良いでしょう。
使用するならば、リドカイン(エピネフリン添加有)を通常量使用するのが安全でしょう。
エピネフリンは通常量では、胎盤血流量を増加させるため、胎児への酸素供給が問題となることは基本ありません。
実際の臨床上では、抗生物質として、ペニシリン系あるいはセファロスポリン系の投与、鎮痛消炎剤としてアセアミノフェン(カロナール)の投与、局所麻酔薬としてのリドカイン(エピネフリン添加)の使用、腹部遮蔽下での歯科用X線撮影は、基本的な安全性に問題はないと考えられます。
しかし、現実、胎児に奇形が認められた場合、これらが原因ではないことを証明することは不可能であるため、この通信を通じて、予め患者様へお知らせするとともにご理解を深めていただけましたら幸いです。
彩都歯科クリニック